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禁忌肢は恐いのか?

 薬剤師にすべきでない受験者を識別するため、間違って一定数以上、選択した場合に自動的に不合格となる『 禁忌肢 』の導入

 上記内容は、医道審議会薬剤師分科会の薬剤師国家試験制度改善検討部会が、公表したものである。禁忌肢については2019年の第104回薬剤師国家試験から適用されるのは、ご存じの通り。

 私が以前勤めていた予備校では、医師国家試験対策や歯科医師国家試験対策も行っていた。その関係で、禁忌肢というモノも知ることになったのだが…。当時、まだ禁忌肢というモノをあまり知らない身分だったので、医師や歯科医師国家試験対策の先生方に、どんなものなのかと色々と聞いたことがある。当時、禁忌肢に関する合格基準は、医師国家試験で全問題500問のうち、禁忌肢の選択数3問以下(つまり、禁忌肢に該当する選択肢を4つ選んだだけで不合格)。歯科医師国家試験で全問題365問のうち、禁忌肢の選択数2問以下(つまり、禁忌肢に該当する選択肢を3つ選んだだけで不合格)という具合であった。ちなみに、医師国家試験の禁忌肢に関しては、未だ前述の通りであるが、歯科医師国家試験においては、111回(平成30年実施)から禁忌肢問題は出題されなくなっている。

 禁忌肢に関して、よく相談されるのが『 1問でも間違ったら、何点取っていてもアウトなんですよね? 』といった内容。実は、私も禁忌肢というモノを知った時には、同じことを考えていた。しかし、前述のように1問でも間違ったらアウトではない。医師国家試験で、問題数500問の選択肢の中から、禁忌肢を合計4つ選んだらアウト。当時の歯科医師国家試験では、問題数365問の選択肢の中から、禁忌肢を合計3つ選んだらアウト…という具合である。まあ、あまり芳しくない言い方ではあるが、医師国家試験では3つまで、当時の歯科医師国家試験では2つまで踏める…ということになる。

 4つ選んだだけで、他が満点でも不合格。3つ選んだだけで、他が満点でも不合格。何とも、恐ろしいように聞こえるが…。様々な意見があるので、言及できないが…歯科医師国家試験で禁忌肢が無くなった理由の一つに、禁忌肢で不合格になった受験者が、近年ほぼいなかった…ということを耳にしたことがある(何度も書かせていただくが、真偽のほどは定かでない)。医師国家試験でも、禁忌肢で不合格になる受験者は、ほとんどいないとのこと。つまり、皆が恐れているほど、禁忌肢が原因で不合格になることは、あまりないようである。

 では、禁忌肢を恐れる必要はあるのだろうか?『 ものを恐がらな過ぎたり、恐がり過ぎたりするのは易しいが、正当に恐がることはなかなか難しい 』と言ったのは、物理学者、随筆家、俳人でもあった寺田虎彦氏。そう、何事も恐がらな過ぎたり、恐がり過ぎたりするのは易しいのである。難しいのは『 正当に恐がる 』こと…。

 正当なる試験対策をしていれば、禁忌肢は恐れるに値しない。正当なる試験対策…基礎からしっかり理解していく。覚えるべき事を覚え、『 何故、そうなるのか? 』といった理由をしっかりと把握する。そして、考えて解く。これさえできていれば、決して禁忌肢を踏むことはない。特に大事なのが、ただ暗記するのではなく、『 何故、そうなるのか? 』といった理由を、しっかりと把握するということ。そして、考えること。何のことはない。試験対策の正攻法の最たるものである。

 禁忌肢の内容は以下の様なものである。

  ① 公衆衛生に甚大な被害を及ぼす。

  ② 患者に対して重大な障害を与える危険性がある。

  ③ 倫理的に誤っている。

  ④ 法律に抵触する。

『 何故、その行為を行うと、公衆衛生に甚大な被害を及ぼすのか? 』『 何故、その行為を行うと患者に対して重大な障害を与える危険性があるのか? 』『何故、その行為が倫理的に誤っているのか? 』といったことは、暗記などしなくとも、しっかりと内容を理解していれば、自ずと分かることである。『 この場合、こういうことをすると、こうなってしまうから、これは違う 』と考えて解けば、禁忌肢を踏むことなど、まず有り得ない。そう、誰も気付いていないようだが…禁忌肢とは、誤った選択肢であり、誤った内容なのである。早い話×の内容。×をつけることができれば、自ずと排除される訳であるから、踏むことは無い。だから、あえて『 ○○はやってはいけない。これは禁忌肢になる 』と覚える必要など、全くと言っていいほどない訳である。

 ④の法律に抵触するといった内容に関しては…確かに法律を覚えていなければならない部分はある。しかし、それとて『 何故、そのような法律が必要なのか? 』といった観点から覚えていれば、さして難しくはないはずである。これも、試験対策の本質。覚えることも、ただ覚えるのではなく、『 何故、そうなのか 』といった観点から覚えていく。そう、正当なる試験対策において、100%の丸暗記など、そう出てくるものではないのだ。もちろん、100%の丸暗記など、そう使えるものでもないし、思いのほか役に立つものでもない。

 つまり、試験対策として、きちんとしたスタンスを取っていれば、禁忌肢を踏むことは、まずないと言っていいだろう。しかし…昨今の多くの学生さんがやっているような『 意味も分からず覚える 』では、踏む可能性が高くなることは間違いない。さらに…いつものように、意味も分からず『 ○○はやってはいけない。これは禁忌肢になる 』と覚えていったとして…一体どれだけのことを、覚えなければならないのだろうか?確かに試験対策では、覚えなければならないことはある。しかし『 覚えなければならないこともある 』であって『 全て覚えることばかり 』ではない。覚えるべき事は覚える。理解するべき事は理解する。これが正当なる国家試験対策である。何でもかんでも、ただ覚えればいいというモノではないし、そういう考えだからこそ、とにかく丸暗記…といった方向に、流れてしまうことになる。7×7は九九で覚えなければならない。しかし、その後の12×7は、覚えた九九から、自ら考えて導き出さなければならない。12×7まで九九のように覚えていったのでは、たまったものではない。これが『 ボールペンが、7ダースあります。全部でボールペンは何本ありますか? 』なんていう文章題になった場合。暗記だけでは、目も当てられない状況になってしまうのは、言わずもがな。

 暗記の恐い所の一つに『 意味が分かっていないのに、知った気になってしまう 』ことがある。そう、使える知識にはならないということ。知ってはいるけど、分かっていない…試験対策にとって、これほど危険ことはない。そして、これが禁忌肢を踏んでしまう、一番の要因となるのである。『  ガソリンとは、どういうものか? 』『 どうやってエンジンを動かしているのか? 』を、大体でもいいから理解していれば、ガソリンを火のそばに置いてはいけないことは、教わらずとも考えれば分かるはずである。『  ガソリンとは、どういうものか? 』『 どうやってエンジンを動かしているのか? 』を、全くといっていいほど分からずに、ただ『 ガソリン=エンジンを動かすもの 』と暗記している人間にとっては…ガソリンを火のそばに置くという行為に対し、何の疑問も抱くことはないだろう。

 ものを恐がらな過ぎたり、恐がり過ぎたりするのは易しいが、正当に恐がることはなかなか難しい。『 禁忌肢なんて全く問題ない 』とするのも、『 禁忌肢が気になって、とにかく試験対策が不安である 』とするのも、正当に恐がっていない。試験対策の本筋に沿って、正当なる試験対策を行っていけば、恐れる必要もなければ、恐れすぎる必要もない。もちろん、『 とりあえず、暗記して乗り切ろう 』というのは、侮りすぎ…すなわち、『 恐がらな過ぎ 』の最たるものであろう。そう、結局は『 不安すぎず、侮らず 』といった、正当なる試験対策を行ってさえいれば、それほど禁忌肢を恐れる必要はないのである。実際、昔、医師国家試験対策や歯科医師国家試験対策の先生方に、禁忌肢のことを聞いた時も、『 必要以上に恐れる必要はない 』というようなことを話していた。正しい試験対策を行っていれば、侮ることは無い。正しい試験対策を行っていれば、必要以上に不安になることも無い。正しい試験対策さえ行っていれば、禁忌肢が導入されようとも、試験のシステムが変わろうとも十分に対応できる。これが、禁忌肢に対する私の考えである。

 

『 分からない 』ことを むやみに恐れたり、ごまかして安心しようとすることこそ、一番危険なことだと知るべきだろう。

まことに『 正しく恐れる 』ということは難しいことだ。

ではどうすればよいかというと、学習するしかないのだ。

 

by さだ まさし (シンガーソングライター、タレント、小説家)

 

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