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貧しいから盗む。

 私の母の実家は、あまり裕福ではなかったらしく、子供の頃は金銭的に大変な苦労をしたそうです。小中学生の頃は、給食費を払うのも大変だったそうで、よく滞納していたとのこと。昔はそんな家庭は珍しくもなく、母のような子供はクラスにも大勢いたそうです。当時は、教師も今ほどの指導は受けていなかったのでしょうか、そんな子供達にはおもむろに嫌みを言ったり、蔑んだ目で見ていたりしたそうです。さらに悲しいことに、裕福な家庭の子供たちには、あきらかに違う、好意的な態度で接していたそうです。

 母が中学校に通っていたある日のこと。給食費が盗まれるという事件が起こったそうです。教師は、帰りの会で皆にその件を告げたのですが…帰りの会が終わり、皆が帰宅の準備をしている時、裕福ではない家庭の子供たちが集まっている所にやってきてこう言ったそうです。

『 作法室に壺があるから。盗んだお金はその壺の中に入れておきなさい 』

母達はそれを聞いた時に「私たちが盗ったって言っているみたいだよね…」と話したそうです。確かに裕福ではないし、給食費も滞納していたりするけれど、人のモノ(ましてやお金)を盗むなんていうことはしない。祖母からも「どんなに苦しくても、人のモノに手を出してはいけない」と何度も何度も言われていたそうです。母の周りの級友達も、家族から同じように言われていたとのこと。それなのに…。母や級友たちは、何ともやりきれない気持ちになったそうです。その後、盗んだ人は見つかったそうですが…盗んだのは裕福な家庭の子供だったそうです。その子曰く「映画を見に行くお金が欲しかった」。その子は裕福な家庭の育ち。映画を見るくらいのお金は、お小遣いとしてもらっていたというのです。「そのお小遣いを使えばいいのに」と、母は不思議に思ったそうです。

 皆さんは、ロバート・カーンズという人を知っているでしょうか?映画にもなったので知っている人も多いと思いますが、車のワイパーを発明した人です。「さぞかし裕福な人生を送ったんだろうな」と思ってしまうのですが…。ワイパーを発明してからの彼の人生は、訴訟一色と言っても決して過言ではありませんでした。彼はワイパーの仕組みを完成し、それを自動車の大手メーカーに売り込みに行ったそうです。好評を得た彼のワイパーは、大手メーカーの車に採用されることになったのですが…大手メーカーはワイパーの設計を盗み、自社の発明とするよう手はずを整えたのです。早い話「ワイパーは我々がつくったものですよ」とした訳です。ロバート・カーンズは、大手メーカーを相手に訴訟を起こし、数々の圧力にも屈せず、長い訴訟の結果、ワイパーを自分の発明と認めさせたそうです。

 何故、大手メーカーが一個人の発明を盗むような真似をしたのでしょう?大手メーカーなら、彼に特許料・使用料を支払ったところで、何ら困ることはないはずです。ましてやワイパー付きの車は飛ぶように売れるはずですから、その儲けから比べれば、彼に払う特許料・使用料など微々たるもののはずです。前述の母の話でもそうです。お金を盗んだ子は、お小遣いもきちんともらっている裕福な家庭の子。なのに、何故お金を盗んだのでしょうか?両者とも、盗む必要は全くないと思うのですが…。

 世の中には「裕福だから盗まない」「大きい会社だから盗まない」といった考え方があるようです。これは間違いなく偏見です。前述の件からもお分かり頂けるかと思いますが、ブログを読まれている方の中にも、この考え方(裕福だから盗まない・大きい会社だから盗まない)の矛盾に気がつかれている方は多いのではないでしょうか?真偽はともかく、逆に「裕福だからこそ盗む・大きい会社だからこそ盗む」といった考え方の人も、世の中にはたくさんいるようですが…。

 私は「貧しいから盗む」と思っています。「えっ?『貧しい家庭だから、盗むというのは偏見だ』と書いたばかりじゃ…」と思った方もいることと思います。私が言っている〝貧しい〟は金銭的なことではありません。〝心の貧しさ〟を言っているのです。心が貧しいから盗む。心が貧しいから、人のモノを無断で自分のモノにする貪欲さを持つ。貪欲とは「むさぼって飽くことを知らないこと(デジタル大辞泉)」とあります。裕福であろうと、大きな会社であろうと飽くこと、すなわち「満足すること」を知らなければ、不平不満ばかりということになってしまいます。「満足すること」を知っていれば、不平不満もなく現状への感謝の気持ちが生まれるのではないでしょうか?そうすれば、お小遣いの中から映画のお金も出たでしょうし、ワイパーへの特許料・使用料も出たはずです。満足すること、そしてそれに対する感謝の気持ちが無ければ、どんなに裕福であろうとも、どんなに大きな会社であろうと、卑しい気持ちが生じて盗みを働くのではないでしょうか?心が貧しいから盗む。私はそう思っています。

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